片思いのお話し



こんなに近いのに……ね。

退屈な授業はいつものこと。教室の中に漂うのは気だるい空気と時計の針が

早く進むことへの切なる願い。

黒板の上の時計は後五分で休み時間だと知らせてくれている。
先生は楽しそうに英語の授業を進めている。
この先生って、生徒に人気があるけれど私はちょっと苦手。

そんなことはどうでもいいのよ。

かちんと長針が進むとチャイムが鳴った。
「はいここまで」
先生の声が授業の終わりを告げる。
「きりーつ」

学級委員の号令。とっととご挨拶を済ませて私は廊下にでる。
校庭を見下ろす廊下の窓、ここは私の特等席。
校庭に続く外の階段は、この校舎の2階にある三年一組から一番近い。
休み時間になるといつもそう。
大急ぎで友達同士、なにか話しながら階段を下りていく。
がちらりと見える瞬間。
私が待ち焦がれている瞬間。


同じクラスのに後ろから声をかけられた。
、通った?」
「うん」

は私のへの気持ちを知っている。
痛いくらい私がを好きだということを知っている。

校庭で走る

私、どんなに遠くからでものことを見分けられるの。
「さっさと告っちゃいな」
は簡単に言うけれど、私、に前に一度振られちゃってるのよね。
勇気を出して呼び出して、見事に振られちゃった。
「また振られた怖いもん」
「振られた理由はなんだったの?」
「わかんない。ただ、ごめんだって」
やだやだ、涙が少し目に浮かぶ。
何気ない風で涙を指で押さえた。
若葉の季節。青々とした木の下で見事に振られちゃった。

廊下も教室も騒々しい。そんな中で窓から校庭を見つめながら、私は小声で答えた。
それに、今はこうやって見つめるだけでいいんだから。
「乙女だね」
茶化すの言葉に私は苦く微笑んだ。
「それはそうと次は音楽室に移動だよ」
「そうだね」
名残惜しいけれど、窓から離れて教室で教科書とノートの用意をする。
クラスの人もそろそろ移動を始めていた。
「早めに行けば廊下や階段ですれ違えるかもよ」

は私を励ましてくれた。
そんなこと、私も考えている。
でも、本当に恥ずかしくて横を通り過ぎるなんてできない。
「さ、行くよ」
私たちは教室を出て隣の校舎の音楽室に移る。
がさっき通った階段を下りながら、校庭のを目の端に捉えながら。
「ゆっくり行けばいいよ」
は私に言うけれど、そんなことできない。
普通の速度で歩いた。普通を装って歩いた。
でも心の中は違うのだ。
の言うように偶然を待っていた。

廊下ですれ違えることを。

チャイムはまだ鳴らない。は一生懸命ボールを追いかけている。
私は校庭に面した廊下で歩きながらを見ていた。
ボールを追いかけているが、ボールの行方を捜しているとき
不意に私と視線がぶつかった。

コンマ何秒の世界。

でも私にはスローモーションのようにゆっくりと感じた。
は私の視線に気づいてすっと目の先を離した。
それでもいい。
と目が合う。それだけで私は言葉が出ないのだ。



が声をかけてきた。それがきっかけになったみたい。
呆然としていた私は涙を溢れさせてしまった。
「どうしたの?」
「ううん……なんでもない」
視線が合って驚いて嬉しくて泣いた、なんて正直に言ってしまったらの中で
私の乙女度が激しくアップしてしまう。


「音楽室、行こ」
にやっと声をかけて私は廊下をまた歩く。
チャイムが鳴った。
みんなが教室を目指す中、もサッカーを終了させた。
横を通り過ぎることは出来なかったけど、が走って起きた風が少し私にぶつかった。
胸が苦しくて、そんな風にも涙がこぼれる。
私がもっと可愛ければ、長い髪で女の子らしければ、勉強が出来ておとなしい女の子であれば。
の理想の女の子であれば。
こんな切ない思いをしなくてもいいのよね。
、今日はなんかおかしいよ」
「なんでもないよ」
にちょっと笑って音楽室に向かう。


 

 
あなたの心に片思いの切ない感情を
呼び起こしましたかしら?
恋は成就までの道が長ければ長いほど
成長している証なのだと
キリアは思います

Salon de Kilia

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